CD38はNAD+代謝を介して卵巣機能と繁殖力を制御する
CD38 regulates ovarian function and fecundity via NAD+ metabolism iScience 2023; 26: 107949
・卵巣CD38の発現は生殖年齢とともに増加する
・CD38が欠損すると、若いマウスでは卵巣NAD+が上昇し、繁殖力が増加する。
・CD38の欠損は若齢マウスの卵巣予備能の上昇と関連する。
・CD38ノックアウトマウスにおける卵胞形成期間の延長が予備能の増大の背景にある。
Graphical Abstract
本研究では、NAD+の分解酵素とも言われるCD 38のノックアウトマウス(KO)を作成し、卵巣の解析と交配試験による妊孕性を検討した。NAD+はSIRTやPARPと言った、生命維持に重要な分子の補酵素で加齢と共に減少することが知られている。CD 38はNAD+の分解酵素で、一部の組織では加齢と共に増加することが報告されている。本研究の結果から、卵巣でも同様の現象が確認できた。加えて、CD38のKOを解析したところ、2及び5ヶ月齢の卵巣内原始卵胞数がWTに比べて有意に多かったが、12.5ヶ月齢では差がなかった。交配試験の結果も、2ヶ月齢を用いた解析で、1匹あたりの出産回数に差はなかったが、出産あたりの産仔数はKO群がWTに比べて有意に多かった。しかし、6ヶ月齢を用いた解析では、出産あたりの産仔数にも差は無くなった。卵巣における加齢とCD38、妊孕性の関係性の一部が明らかになった。
哺乳類の雌の生殖寿命は、一般的に平均寿命よりも著しく短く、卵巣NAD+レベルの減少と関連している。しかし、この卵巣NAD+の減少の根底にあるメカニズムは不明である。
ここで我々は、NAD+を消費する酵素であるCD38が、卵巣の卵胞外にあるスペースで、主に免疫細胞において発現しており、そのレベルは生殖年齢とともに上昇することを示した。生殖年齢が若いCD38欠損マウスは、野生型対照マウスに比べて、原始卵胞プールが大きく、卵巣のNAD+レベルが上昇し、繁殖力が増加した。
このような卵巣予備能の増大は、発生初期における卵胞形成のウィンドウが延長された結果である。しかしながら、生殖機能に対するCD38欠損の有益な効果は、高齢になっても維持されない。
この結果は、CD38が卵巣のNAD+代謝を制御し、卵巣予備能の確立に新たな役割を果たしていることを示しており、これは女性の生殖寿命を決定する重要なプロセスである。