クルクミンの不妊治療用小卵胞発育促進剤としての可能性を探る
Identification of curcumin as a novel potential drug for promoting the development of small ovarian follicles for infertility treatment PNAS Nexus 2022; 1: 108.
クルクミンは、生殖医療補助剤としてヒト小卵胞発育促進に有用である可能性が示された。
Graphical Abstract
体外受精は、様々な不妊症の原因に対して有効な治療法である。しかし、Poorレスポンダー(卵巣刺激をしても卵胞が育ちにくいor育たない)や卵巣機能不全(卵巣内の残存卵胞数or発育中卵胞が極端に少ない)の女性は、ホルモン治療に反応しない小卵胞が未発達であるため、その管理は依然として困難である。小卵胞の体外活性化術は開発されていますが、その効率には改善の余地が大きい。
本研究では、FDAに認可された伝統薬であるクルクミンが、マウス卵巣卵胞の一次から二次への発達を特異的に促進し、これらの小卵胞を、その後の生体内で排卵可能な胞状卵胞への発達に大きく寄与することを示すいくつかの証拠を提示する。
メカニズムとしては、クルクミンがホスファチジルイノシトール3キナーゼ(PI3K)シグナル経路を活性化することにより、顆粒膜細胞の増殖と分化、卵子の成長を促進することを示している。
最も重要なことは、ヒト卵巣組織をクルクミンでインビトロ処理すると、ヒト小卵胞のインビボでの生存と発育を促進できることを示し、クルクミンがヒト小卵胞の体外活性化の成功率を高める薬剤として利用できる可能性を示すことである。したがって、クルクミンは、不妊治療のための小さなヒト卵巣卵胞の発達を促進するための新しい潜在的な薬物であることを確認した。
◎マウスを用いた実験
方法:生後7日齢のマウスから卵巣を摘出し、体外で6日間培養。培養液にクルクミンを添加(50μM, 100μM)する群と、無添加群(コントロール)を用いた。体外培養後、マウスの腎被膜下に移植。移植から14-28日で摘出し卵胞カウントと免疫染色を実施した。また生後13日齢のマウス卵巣から顆粒膜細胞を単離し培養、タンパク質の発現変化を解析した。
結果:6日間体外培養した卵巣組織では、クルクミン添加群の二次卵胞数がコントロールに比べ有意に増加した。移植から21日後の卵巣組織では、クルクミン添加群の胞状卵胞数と黄体数がコントロールに比べ有意に増加した。この結果は、卵巣組織の体外培養中にクルクミンを添加することで二次卵胞への卵胞発育を促進し、それらの二次卵胞が移植後も順調に発育したことを示している。また顆粒膜細胞の解析で、クルクミンが顆粒膜細胞の増殖を促進し、アポトーシスを抑制すること。加えて、PI3Kシグナルを活性化する可能性を示した。
◎ヒト卵巣組織を用いた実験
方法:ヒトの胎児卵巣組織は、香港大学深圳病院で妊娠中期の中絶手術を受けた女性8人から提供を受けた。卵巣を摘出し1mm角の組織片にして、体外で培養。培養液にクルクミンを添加(100μM)する群と、無添加群(コントロール)を用いた。培養後、免疫不全マウスの腎被膜下に移植。移植後6ヶ月で摘出し卵胞カウントを実施した。
結果:最終的に解析が実施できたのは2人分の検体となっている。移植から6ヶ月後の卵胞カウントの結果、クルクミン添加群の原始卵胞、一次卵胞、二次卵胞の数がコントロールに比べ多い傾向にあった。
※補足
FDA:アメリカ食品医薬品局(Food and Drug Administration)。消費者が通常の生活を行う際に接する機会がある様々な製品(食品、医薬品、動物薬、化粧品、医療機器、玩具など)の安全性・有効性を確保するための機関。FDAは、クルクミンを人が消費するにあたり、薬理学的安全性を承認している。