ミトコンドリア外膜タンパク質Mul1欠損卵子における活性酸素レベルの増加は着床前の胚発生異常をもたらす
Increased ROS levels in mitochondrial outer membrane protein Mul1-deficient oocytes result in abnormal preimplantation embryogenesis FEBS Lett. 2024 Apr 19. doi: 10.1002/1873-3468.14876. Online ahead of print.
この論文は、ミトコンドリア外膜タンパク質Mul1*欠損卵子の胚発育について検証したものです。本研究結果から、Mul1欠損によりミトコンドリア機能が低下して活性酸素種(ROS)が過剰に生成されることで、卵子の質が低下して正常な胚発生が阻害される可能性があると報告しています。
*Mul1(ミトコンドリアE3ユビキチンリガーゼ1)は、ミトコンドリアの機能とダイナミクスを調整する重要なタンパク質。その欠損により、ミトコンドリアの分裂と融合のバランスが崩れることが示されている。
Graphical Abstract
Abstract
これまでの研究からROSは卵子の成熟阻害に関連しており、N-アセチル-L-システイン(NAC)は、ROSの有害な作用を部分的に軽減することが報告されている。また、Mul1はミトコンドリア外膜に局在するタンパク質である。我々は、雌のMul1欠損マウスは不妊であり、その卵子は高濃度の活性酸素を含んでいることを発見した。受精後、Mul1欠損胚はDNA損傷応答(DDR)を示し、胚発生に異常がみられたが、これはNAC添加と活性酸素除去によって回復した。これらの観察結果は、卵子におけるMul1の欠損が活性酸素濃度を上昇させ、DDRを誘発し、着床前胚形成異常をもたらすことを明確に示している。我々は、卵子におけるミトコンドリアの活性酸素濃度を操作することが、不妊症をターゲットとした治療アプローチになる可能性があると結論づけた。
コメント
この論文は、Mul1欠損が卵子内のROSを増加させ、異常な胚発生を引き起こすこと論じています。Mul1の欠損によるROS増加とそれに伴う胚発生の異常は、不妊症や胚発生障害の原因を考える上で貢献できる情報の一つでしょう。異常な胚発生の回復手段も示されており、不妊治療の分野において新しい治療法開発の基盤となることが期待されます。